通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2021年4月号 石井晴夫東洋大学大学院経営学研究科客員教授に聞く

郵政事業の原点は地域密着、お客様目線 ビジネス戦略と組織マネジメントの乖離是正を(上)


――日本郵政グループは製販分離された経営形態で今後どのようにしたら収益を上げつつ、公共性・地域性を発揮することができると思いますか。

 「Make or Buy」(内製か外製か)、これは古くて新しい言葉ですが、自分で作って売った方がよいのか、あるいは他人が作ったものを売るだけにしたほうがよいのか。製販一体でそれを統合したほうがよいのか、分離したほうがよいのか。これについてはすでに様々な研究が行われています。業種や業態によっても違いますし、時代の流れや趨勢によっても異なります。今日までマーケティング分野で様々な分析が行われているのです。顧客に一番近いところのビジネスやサービスというのは、過去の経験値を見ても製販一体のものが圧倒的に多いのです。顧客に近ければ近いほど、直接自分で作ったものを売らないと売れません。売れ筋の本質が分からず、詳細な説明ができないからです。ただ与えられたものを売って来いというのでは駄目なのです。製販一体であれば、お客様が何を欲しているのかが一番よく分かるわけですから、お客様が欲している商品・サービスを提供すればよいのです。ところが作っている人と売っている人が全く別々ですと、ただ単にこの商品を売って来いと指示を出すだけのビジネスモデルになり、製販分離したことが、かんぽやゆうちょの一連の問題の大きな原因にもなっていると思っています。
 郵政の民営・分社化というのは本当に複雑なパズルの中に落とされてしまったとも考えられます。残念ながら解けないパズル、抜け出せないジャングルの中で日本郵政グループの皆さんはどうしたらよいのかと腐心されていると思います。仮に郵便局がなくなったら私たちの生活インフラがゼロになってしまい、ゼロになるということは私たちの生活が成り立たなくなるということなのです。今日の現状を改めて精査し、必要があれば法改正を含めて、なんとしてもこれを改善しなくてはなりません。最終的には政治の判断になると思いますが、郵政事業全般の問題についてはなかなか理解が深まりません。そこが一番大きな問題であると思います。