通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2020年11月号 政治評論家 森田実先生に聞く (上)

安倍内閣から菅内閣に 政治の新潮流を読み解く


――安倍内閣の7年8カ月にも及ぶ在任期間の総括について。

 日本の長い歴史のなかで見た場合、かなり、将来にマイナスを多く残した期間ではなかったかと思います。安倍政権が7年8カ月も続いたのは、選挙で自民党が勝ち続けたためで、安倍内閣と自民党にとっては良かった7年8カ月だったわけですが、失うものも多かったのではないでしょうか。
 第一に良くも悪くも日本は役人社会が支えてきたわけです。日本の役人は世界的に見た場合、道徳的にも、知的にも、非常に優れていて、その優れた役人が日本を支えてきました。例えば、第二次世界大戦の時にも、役人はかなり狂気的な軍部と戦っているのです。さらに、第二次大戦後の復興においても、日本の役人社会の果たした役割は非常に大きかったと思います。その後、1973年の石油危機までは、その大きな流れで日本は復興、成長を続けてきたのだと思います。いろいろと言い分はあっても、よくやったと言える復興だったと思うのですが、石油危機で世界の大きな流れが変わってしまいました。
 イギリスとアメリカが自由競争を徹底的に行う社会が良い社会なのだという競争至上主義、新自由主義革命をもたらし、(日本においても)それまでの半官半民で中道的な政策をとってきた流れが否定され、競争至上主義、いわば、個人の利益を最大限に追求してもいいのだという方向に転換して約50年が過ぎたというのが、今までの大きな経過ではないかと思うのです。

――優れた日本の役人制度を大きく変化させてしまったのも安倍内閣の特徴と言えるわけですね。

 役人社会というものが、社会の発展の障害になっているというアメリカ、イギリス流の考え方が日本に波及しまして、いわゆる、この50年間改革のターゲットに役人社会を置いて、それでも、ある時期までは役人社会は頑張ってきたのです。ところが、民主党政権になって崩れ、自民党の安倍政権の7年8カ月の間に、人事を各省庁から首相官邸に集中して、首相官邸で幹部約600人を任命するという制度に対して、役人社会が内閣の顔色を見るようになってしまいました。忖度という、ある種の堕落です。これが幹部の間に広がってしまい忖度が始まった。そういう状況を安倍内閣7年8カ月の間に創ってしまったのは、我が日本国の歴史において、大いに反省すべきことではないでしょうか。
 安倍内閣を振り返る場合に新聞社などの総括はプラス面が強調され、国際的に活躍して日本のイメージをアップしたことなどが取り上げられていますが、それは安倍さんが居なくなれば消える話で、やはり、構造的な意味で日本の中に安倍政権が何を残したかというと“負の遺産”。その負の遺産の最大のものが、この“忖度官僚”が行政機関の指導部の間に広がったことです。これが、一番気になっていることです。