通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2019年10月号 松本正生 埼玉大学経済学部教授・社会調査研究センター長に聞く

2019年夏の参議院議員選挙総括


――第25回参議院議員通常選挙の結果を受け、どのような印象を持たれたでしょう。

 今回は当初から(選挙)結果がある程度わかっていて、その通りになったという印象です。現状とそう変わらないということが最初から見込まれていたので、それが、皆さんの投票行動(投票率48.80%、過去2番目の低投票率)に表れたのではないでしょうか。

――選挙の争点についてはどのようにお考えでしょう。消費増税や年金問題、憲法改正などありましたが、投票結果により対立軸が示されなかったのはないでしょうか。

 もちろん、有識者の間で意見が分かれている政策や争点はあったわけです。特に消費増税に関しては、若干、反対の方が多かったのですが、四分六分ぐらいで意見が分かれています。もう一つは、年金の、いわゆる2000万円問題をかなり意識している人たち、つまり、政府に対して批判的な人と、「しょうがない」と諦めている人とで半々ぐらいでした。このように、有権者のなかで意見が分かれる事項があったわけですけれど、それが直接投票行動に結びつかなかったのです。すなわち、野党は戦略的に消費税反対と年金問題で政府批判を掲げることになるのですが、消費税に反対で年金問題に関しても政府に批判的だった人たちが必ずしも野党に入れなかったのです。争点が“上滑り”してしまった感じがしています。
 それでは、何をもって(投票行動が)決まったのかと言えば、やはり、安倍内閣に対する評価が一番の決め手だったように思います。ですから、わざわざ替える必要はないという見方なのでしょう。そうした有権者のスタンスは、事前の内閣支持率などからわかっていたわけです。今回の選挙での民意は現状を受け入れて。「変化は望まない」という社会の雰囲気を確認する程度の意味しかなかったという気がします。