通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2019年2月号 川野祐司・東洋大学経済学部教授に聞く

北欧に学ぶキャッシュレス化の現状と課題


 キャッシュレス化という言葉には、「現金の流通額が減少する」という意味と、「現金の代わりの支払い手段が普及する」という意味があります。スウェーデンのキャッシュレス化には両方が含まれていて、現金の流通額が近い将来ゼロになると見られています。現金の流通額が減少しているのはスウェーデンのみといってよく、ほとんどの国では現金は増加を続けています。つまり、スウェーデンを見ればいろいろな国の将来のキャッシュレス化が予想できるのではないかと思うのです。
 技術のある日本でキャッシュレスの普及が遅れている理由は、顧客の視点に立ったサービスが少ないことにあります。日本の電子マネーはとにかく種類が多い。たくさんあり過ぎて顧客はどれを持っていればよいのか分からない。相互の接続サービスも不十分です。スウェーデンで2012年に登場した「Swish」はスマートフォンのアプリに銀行口座を登録して使うものですが、これには多くの銀行が参加しています。多くの企業が参加して一つのブランドを展開しているのです。
 誰のためにキャッシュレス化を進めるのかをもっと議論する必要があります。キャッシュレス化を進めると、政府に自分の生活や財産を把握されるのではないかという不安もあるようです。政府に対する信用、支払いデータが政府に流れない仕組みをつくることも大事でしょう。個人情報に関しては、北欧では公開してもよいプライベート情報と公開してはいけないプライバシー情報に分けて考えています。日本でもどの範囲までのデータを公開してもいいのか議論が必要です。