通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2016年3月号 特別対談 ICT社会における課題と展望 ~NTTの民営化とその後~

日本電信電話株式会社 和田紀夫特別顧問
元衆議院議員、一般社団法人通信研究会 亀井久興会長


和田特別顧問 ICTの進化やデジタル革命の進展は想像以上に我々の生活にプラスに働いています。しかしその裏には影の部分もかなりあります。 私はこの問題は大きく分けて二つあると思うのです。一つはネットワークやシステム自体を壊してしまう。いわゆるサイバーテロというものです。あるいはネットワークやシステムの中を流れているデータ、コンテンツを犯罪に使うという問題です。この攻防はまさにいたちごっこで、守るも攻めるも日進月歩の状態です。もう一つの問題は、ICTを使って他人を誹謗中傷する、あるいは噂を流す、プライバシーを侵害するということです。これは技術の問題ではなく人の倫理上の問題です。これに対しては教育、いわゆるリテラシーをどう高めていくかが求められています。学校でも様々な対策が講じられています。
 
亀井先生 インターネットの普及はまさに世界の人々の生活様式を一変させてしまったと思います。さらに新しい価値観まで生まれつつあります。インターネットはだれでも参入できる自由なネットワークである半面、だれにもコントロールできないというか責任の所在が明確でないという怖さがあると思うのです。もともと軍事技術として開発したものをセキュリティも含めて開発者が制御できないはずはありません。

和田特別顧問 インターネット技術を軍隊の中だけで使っている分にはセキュリティに無防備であっても秘密は守られていたでしょう。それを民生用に放り出した時に、これは危ないものです、セキュリティをしっかりしなくてはいけませんと言わなくてはいけなかったと思うのですが、NSAとしては危ないものですとは言わなかった。

亀井先生 最後は人間のモラルの問題です。科学技術はますます高度化し、進歩発展していくと思いますが、結局人間がそれに振り回されて人間本来の価値がどこかに置き去られてしまう。それが一番怖い姿です。若い頃にチャーリー・チャップリンの映画『モダン・タイムス』を観て非常に考えさせられたのを覚えていますが、まさにチャップリンは先を見抜いていたのでしょう。結局、人間が開発した科学技術を自らの力で制御できなくなってくる。そういうことがいろいろなところに表れてきています。

和田特別顧問 ジャン・ジャック・ルソーが「文明の発達は人間にとって悪になる」と言いましたが、そうならないためにやるべきことはやらなくてはいけません。科学技術の進歩を止めるわけにはいきません。人間の生活向上、豊かさにつながっていくことは間違いないわけですから。しかし一方のマイナス面をカバーする事が大事ですし、必須です。その為には技術、リテラシー、法制度の三つでカバーすることが大事だと思います。