通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2013年1月号 対談 城内 実・衆議院議員&関岡英之・拓殖大学客員教授

TPP参加への警鐘(下)
アメリカの思惑で、日本が、郵政が壊される


関岡先生 簡保は世界最大の生命保険会社だから、アメリカにとってなんとしても攻略したい目標なのだ。小泉政権時代、簡保の資産は120兆円だった。2005年当時の為替レートは1ドル120円だったから120兆円は1兆ドルで、これはG8の一角カナダのGDPに匹敵する。これが郵政省、つまり政府直営の保険会社だったため、世界最大の保険会社AIGといえども指一本手を出すことが出来なかった。

 そこで、簡保を民営化して政府の持ち株を100パーセント上場しろということになったのだ。上場すれば敵対的M&Aの対象とされることは避けられない。

 ところで、2005年当時、簡保の資産が120兆円だったのに対し、郵貯の資産は230兆円だった。郵貯の方が倍くらいあるのに、アメリカはなぜ郵貯に関心を示さないのかというと、これは金融界では常識だが、預貯金は短期性資金、保険は長期性資金だからだ。20年、30年という長期にわたって自由に運用できる資金なので、要するにマネーゲームの原資として魅力的なのだ。

城内先生 TPPの問題は郵政関係のみならず、金融にしても医療にしても全ての国民の生活に関わる話だ。農業対輸出産業といった単純な図式ではない。たとえば、日本の国民皆保険制度が崩壊すれば、医療費はアメリカ並に高くなる。民間生命保険会社に高い保険料を払っておかないと、まともな医療を受けられないことだって考えられる。食料の安全基準についても、アメリカは自国が正しいと言い張る。遺伝子組み換え食品も売り込もうとしている。しかも、そのことは表示するなと迫る。例えば農薬だって、日本では規制している農薬であっても、「なんで規制するんだ」と訴訟を起こされたりする。当然、ISDS条項があるから、日本政府が訴えられることになる。カナダでこういう例があった。仕入れた燃料の中に、カナダでは認められていない物質が混入していた。そこで、輸入を禁止しようとしたら圧力がかかり、訴訟が起きそうになったので泣く泣く目をつぶったという。

 訴訟の例はたくさんあるが、大体、訴えられた方が負ける。自由貿易だから良いというが、そんなにアメリカ化してどうするのだという話もあるし、郵貯資金も奪われて、ギリシャ化してもいいのかという話にもなってくる。