通信研究会

機関誌 逓信「耀」 特集 地方創生のいま、地域を元気に!

2024年6月号 土山希美枝 法政大学法学部政治学科教授

地域住民が“モメて治める”ことこそが地方自治
郵便局は課題解決を仲介するハブに


 自治というのは地域の課題、地域の未来を、その地域を構成する人々自身で左右するということです。この「自治」も二つの読み方ができます。「自(みずか)ら治める」と「自(おの)ずから治まる」です。前者は地域を構成する“私たち”で治めるということです。「治める」ということは、モメる種があるということです。地域には暮らしの課題が無限にあります。自分たちの地域にひそんでいる「モメ事」をちゃんと可視化して、ちゃんとモメて、ちゃんと治める。私たちが「自治」という言葉で素直に想像するのはこの文脈ですよね。
 後者の「自(おの)ずから治まる」とは、そのまま放置していても治まっている、つまり反抗しないという意味で、為政者つまり権力ある側から見た理想です。モメず、反抗せず、おとなしく支配されている、前者の「自治」とは真逆の感覚が、私たちのなかにないでしょうか。確かにモメるのはエネルギーがいります。私たちは「ちゃんとモメて、ちゃんと治める」訓練を教育課程でもじゅうぶんにしていません。このことが、社会にも、自治体と国の関係にも、影響していないでしょうか。

 【郵便局への期待】
 いくつかの自治体では支所・出張所などの廃止・移転に伴い、郵便局に事務を委託することで住民サービスの維持・向上を図っていると聞きます。特に大都市から遠い自治体、小規模な自治体では、金融とか公共サービスを展開する場所というのは厳しい状態なので、そうした地域では郵便局の果たす役割は大きいと考えています。郵便局はお金と情報の集約点であり、地方では唯一の金融決済機能を持つ拠点なのです。また、郵便配達を通じた地域の人々の交流など、郵便局は地域の住民に密着する存在です。
 その意味で、事業と公益との関係、個人情報との関係など、難しいところはありつつも、自治体と郵便局のもつ機能には重なるところも多いのではないかと思います。郵便局さん自身も体力的に厳しいところはあるかとは思いますが、そこはぜひ頑張ってほしいと思います。