通信研究会

機関誌 逓信「耀」 特集 地方創生のいま、地域を元気に!

2020年9月号 木村 乃 関東学院大学法学部地域創生学科教授

人間を目的とする社会の再生へ 地域の価値を再発見
郵便局のDNAを活用し「旅おこし」の情報センターに


 2065年には総人口が現在の7割(約8800万人)まで減少するという国立社会保障・人口問題研究所の推計値は、現在過疎化傾向にある中山間地、離島等の集落の人口がゼロになる地域が出てくることを示唆しています。ここで考えるべきことは自治体の統廃合といった政策ではなく、国土の保全と文化の継承という長期的政策です。これらの集落の人口がゼロになったとしても、「地域」という生態系のすべてが「消滅」したわけではありません。その「地域」が果たすべき重要な機能が残されています。例えば森林には、生態の保全、都市への水供給、海への栄養補給、保水による洪水緩和など様々な機能があります。問題はこれらの機能をかつての住民に代わって誰が支えるべきかということです。慶応大学名誉教授の岸由二さんが長年提唱されている「流域思考」に立脚すれば、同じ流域で恩恵を受けている自治体のすべてにその責任があるといえます。流域自治体が連携して、かつてその地域に存在した豊かな生活文化を含めて保全管理し、利活用することを積極的に考えるべきでしょう。実は、このような発想で政策を講じれば “住民ゼロとなる運命”すら回避できる可能性があります。流域自治体が、あの地域を守ってくれる人が減ってしまっては困る、と当事者として過疎化を認識し対策を打てばいいのです。私たちが考えなくてはならないことは、統廃合・合併の是非ではなく、国民にとって、都市住民にとって貴重な「地域」を広域的に支える地方行政、地方財政、地方自治体の枠組みなのではないでしょうか。人口獲得競争をしている場合ではありません。