一般社団法人 通信研究会
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第42期(自 平成19年4月1日~至 平成20年3月31日)の決算にあたり、当社団の事業概況についてご報告申し上げます。
明治4年(1871年)の郵便事業創業以来、136年もの長きにわたって国営の郵政事業は、平成19年10月1日より一つの持株会社、日本郵政株式会社のもと、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険の4つの事業会社に民営・分社化された。
持株会社である「日本郵政株式会社」の株式は、政府が3分の1超を保有しなければならないと法律で定められている。また、特別法により設立される特殊会社である「郵便事業株式会社」及び「郵便局株式会社」の株式は、2017年10月までの「移行期間」終了後も、その全株式が日本郵政株式会社によって保有される。これに対して、特別法ではなく、銀行法並びに保険業法によって設立される「株式会社ゆうちょ銀行」および「株式会社かんぽ生命保険」の株式については、2017年10月までにその全株式を完全売却することが法律で義務づけられている。民営化後も郵政事業に従事する予定の職員約25万人のうち、約12万人が郵便局株式会社、約11万人が郵便事業株式会社、残り約2万人がゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、日本郵政株式会社等へそれぞれ帰属することとなる。しかし、職員の中には将来への不安を訴える人も多い。
今回のわが国の郵政民営化は、これまで三事業一体で業務運営がなされてきた郵便・郵貯・簡保をそれぞれ事業別に分割した上で、さらにそこから窓口機能のみを分離・独立させるという、「水平分離」と「垂直分離」の両方を伴う「マトリックス分割」となっている。
イギリスの鉄道改革やアメリカの電力自由化の先例を見ても分かるとおり、このような分割・民営化モデルは今や世界的には明らかな「失敗モデル」と認識されている。特に今回の郵政民営化の場合は、郵便事業株式会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険からの窓口取扱手数料のみで、その事業経営を成り立たせていくという郵便局株式会社のビジネスモデルが果たしてうまくいくのか大いに懸念されるところである。
郵政事業のユニバーサル・サービスについて、政府は「ゆうちょ銀行」ならびに「かんぽ生命保険」の株式売却益の一部などを原資とする「社会・地域貢献基金」を設けることにより、国民にはきちんと担保・保障するとしている。このうち「社会貢献基金」とは、郵便のユニバーサル・サービスや第3種・第4種郵便物等の政策的料金を維持することを目的に、日本郵政株式会社から郵便事業会社に交付されるものであり、「地域貢献基金」とは、金融のユニバーサル・サービスやワンストップ・サービス等を維持することを目的に、日本郵政株式会社から郵便局会社に交付されるものである。
日本郵政株式会社には、1兆円に達するまでの「社会・地域貢献基金」の積み立てが義務付けられるとともに、さらに同基金は1兆円を超えて最大2兆円まで積み立てることができると法律で明記されている。ユニバーサル・サービスを維持する仕組みとして、国鉄改革の際には地方の不採算路線である特定地方交通線に対する「転換交付金」や「運営費補助」、さらには税制上の優遇措置など、様々な各種の財政支援措置が政府によってなされたが、今回の郵政民営化においては、この「社会・地域貢献基金」以外にはなんら特別な財政支援措置はない。手厚い財政支援策が講じられた特定地方交通線でさえも、近年では赤字経営にあえいで廃線に追い込まれるケースも珍しくない中で、「基金」以外に何ら財政支援措置もなされていない郵政事業が、中・長期的にユニバーサル・サービスを提供し続けていくことは極めて困難であると思われる。さらに頼みの綱である「社会・地域貢献基金」についても、金融二社の株式売却益や配当収入がはっきりしない中で、果たしてその原資を目標額(1~2兆円)まできちんと積み立てることが現実的に可能なのか、さらに市場金利動向が大きく変化する中で、安定的にその運用益を生み出すことはできるのかといった不安や懸念もある。
郵便局は国民にとって最も身近な「公的機関」であり、地域コミュニティの「情報・安心・交流の拠点」として親しまれてきた。さらに2001年12月からは従来の郵政三事業のみならず、地方公共団体の事務の一部についても郵便局で取り扱いが開始されている。地域コミュニティの中で郵便局が果たす機能と役割は近年、ますますその重要性を増している。しかしながら、郵政民営化によるサービス低下はいたるところにでている。分社化により事務手続きも複雑で煩瑣になり、システムも一部稼動しなくなるなど、コスト負担も増額し現場の職員も混乱をしていた。さらにコンプライアンスの徹底によりお客さまへの本人証明確認等により説明時間、待ち時間が大幅にアップされた。手数料の大幅な引き上げ、集配局再編に伴う遅配、誤配の数々、簡易郵便局の一時閉鎖の増加等顕著に現れている。このような現状の中で与野党とも民営化による各種サービスダウンの実態について検証する動きが出てきた。
新・郵政事業ビジネスモデル調査研究委員会(5名の有識者・大学教授)を発足し、委員各位の専門的見地から郵政事業の現状における問題点と課題等について、6回の委員会を開催しその研究成果を関係方面に開陳することができた。郵政民営化の問題点について、研修会を開催したいという要請が全国からあり、そのような団体等には積極的に講師派遣を行い好評を得ることができた。
このような郵政事業を取り巻く状況の中、会員のニーズに応えるべく、機関誌逓信「耀」をより一層充実させるため、毎月編集会議を開催した。
編集方針は、総務省の施策を中心に、日本郵政株式会社(各事業会社)の経営戦略、さらに公益性と収益性が求められる郵政事業について衆参総務委員会を中心とした国会論議、有識者の先生方による郵政民営化の検証を行い、その問題点等を紹介し、地域社会に貢献する郵便局の実像を取材等を通して広く紹介することができた。さらに世界の郵政改革の動向、民営化後の現場の状況と今後の展望について全国特定郵便局長会会長、日本郵政グループ労働組合中央執行委員長に対談企画にご協力いただき、掲載することができた。
郵政事業の民営・分社化に向けて、どのような経営システムやビジネスモデルを構築すればよいのかを多角的に検討する。
委員長 東洋大学経営学部教授 経済学博士 石井晴夫
関西学院大学経済学部教授 経済学博士 野村宗訓
学習院大学経済学部講師 経営学博士 武井孝介
日本総合研究所主任研究員 石田直美
第1回 6月28日 | 日本の郵政事業の民営・分社化の内容と問題点等について |
第2回 7月31日 | 公益事業における国際М&Aの展開について |
第3回 9月 4日 | 最近の公共サービスにおけるモニタリングの現状と課題について |
第4回 11月29日 | イギリス郵便自由化の実態と課題 |
第5回 11月29日 | 座談会(逓信耀 取材 3月・4月号掲載) |
第6回 3月 3日 | 欧州郵便事業の政策動向―民営化と自由化の進捗状況を中心として |
4月号 | 郵政民営・分社化の年 郵便事業会社の経営 ―安心、信頼の郵便局ネットワークをより強固に 日本郵政株式会社取締役(郵便事業会社CEО就任予定)北村憲雄 |
8月号 | 郵政民営・分社化の年 ㈱かんぽ生命保険の経営 日本郵政株式会社取締役(㈱かんぽ生命保険CEО就任予定)進藤丈介 |
12月号 | 民郵政民営化の見直しのための「株式処分凍結法案」国会提出とその背景 参議院議員 自見庄三郎 |
3月号 | 政治の間違いは、政治でただす 危険をはらむ郵政民営・分社化 衆議院議員 亀井久興 |
4月号 | 逓信病院の役割と健康・医療の最前線 東京逓信病院・病院長 木村 哲・東洋大学経営学部教授 石井晴夫 |
8月号 | 郵政事業の大変革期(上)「全特」五年の星霜 前全国特定郵便局長会会長 高橋正安・東洋大学経営学部教授 石井晴夫 |
9月号 | 郵政事業の大変革期(下)「全特」五年の星霜 前全国特定郵便局長会会長 高橋正安・東洋大学経営学部教授 石井晴夫 |
10月号 | 全特・激動の出発(たびたち) より良い企業に提案型を貫く 全国特定郵便局長会会長 中川 茂・東洋大学経営学部教授 石井晴夫 |
1月号 | 郵政新時代を迎え JPグループ労組が胎動 日本郵政グループ労働組合中央執行委員長 山口義和・ 東洋大学経営学部教授 石井晴夫 |
4月号 5月号 6月号 7月号 8月号 9月号 10月号 11月号 12月号 1月号 2月号 3月号 |
日本宗教文化史学会理事長 小林正義 |
前衆議院議員 城内 実
4月号 | なぜ郵政民営化に反対したのか |
5月号 | いざなぎ景気を上回る好景気の到来? |
6月号 | 「改革」ダマされるな |
7月号 | 「官から民へ」が産んだコムスンとNОVAの問題 |
8月号 | パフォーマンス型政治をやめよ |
9月号 | 自民党はなぜ参議院選で惨敗したのか |
10月号 | 安倍晋三首相の辞意表明と自民党総裁選 |
11月号 | 福田政権の行方 |
12月号 | 防衛利権問題と政界再編 |
1月号 | 平沼赳夫先生と共生型社会 |
3月号 | 食の安全と明日の日本の農業 |
発明プロデュース協会会長 木村勝己
4月号 | 心の琴線に触れる発想 |
5月号 | 自ら現状を打ち破る行動 |
高伊FP事務所代表 高伊 茂
5月号 | 老後の生活設計について |
6月号 | セカンドライフのライフプランについて |
8月号 | 退職後の生きがいと健康について |
関西学院大学経済学部教授 野村宗訓
1月号 | エネルギー・水道・郵便を中心として |
政治評論家 森田 実
9月号 | 参院選後の日本の政治 (上) |
10月号 | 参院選後の日本の政治 (下) |
11月号 | 福田「背水の陣」内閣の明と暗 |
1月号 | 平成20年の政局を占う (上) |
2月号 | 平成20年の政局を占う (下) |
ポスタルレポーター 星野興爾
4月号 | 第18回米国編・戦略的改革06~10 (下) |
5月号 | 第19回特別レポート・英国編Ⅱ |
6月号 | 第20回特別レポート・英国編Ⅱ 悪戦苦闘するロイヤルメール |
7月号 | 第21回オランダ・TNT編 (上) |
8月号 | 第22回オランダ・TNT編 (中) |
9月号 | 第23回オランダ・TNT編 (下) |
10月号 | 第24回激動する欧州の郵便市場 (上) |
11月号 | 第25回激動する欧州の郵便市場 (中) |
12月号 | 第26回激動する欧州の郵便市場 (下) |
ジャーナリスト東谷 暁
4月号 | 株式投資の「民主化」がもたらすもの |
5月号 | 「証券化」が約束する繁栄の幻想 |
6月号 | お金が儲かれば正義の法理論 |
7月号 | 問題の核心に迫らない「格差」論争 |
8月号 | ウェブに魔法のような力はない |
9月号 | サブプライムローン破綻の真相 |
10月号 | 住宅ローン担保証券市場の堕落 |
11月号 | 生活と経済を暴走させる「証券化」 |
12月号 | ネットの融合で生まれる「炎上」経済 |
1月号 | ドルの暴落はいつ起こるのか (上) |
2月号 | ドルの暴落はいつ起こるのか (下) |
防災士研修センター代表取締役 橋本 茂
4月号 | 災害時要援護者を支援する ① |
5月号 | 能登半島地震が教えるもの |
6月号 | 災害時要援護者を支援する ② |
7月号 | 災害ボランティア ① |
8月号 | 災害ボランティア ② |
9月号 | 新潟県中越沖地震・被災地を訪れて |
11月号 | 災害被害を軽視する国民運動 |
12月号 | 驚くべき「地震被害想定」 |
2月号 | 雪害対策 |
3月号 | 災害「復興」の課題 |
産経新聞経済部記者 福島 徳
郵政事業を巡る総務省、日本郵政会社・国会等の動向を分析しタイムリーに紹介することができた。
4月号 | 「生田総裁の解任にみる政府・与党の無定見・不見識」 |
5月号 | 「歓迎すべき西川氏の総裁兼任」 |
6月号 | 「実施計画からうかがわれる現実の経営の厳しさ」 |
7月号 | 「総会出席者の発言から露呈される郵政事業に対する真剣さ」 |
8月号 | 「郵政弱体化を意図する信書便法廃止の方針」 |
9月号 | 「参院選結果で露呈した“小泉改革”の誤り |
10月号 | 「民営化で露呈したサービス低下の実態」 |
11月号 | 「国家・国民のために必要な民営化の見直し」 |
12月号 | 「民営化で高まる“政治”の重要性」 |
1月号 | 「郵政を守るために問われる政治の責任」 |
2月号 | 「通常国会で求められる郵政民営化の検証」 |
3月号 | 「“改革”論議に欠落する国益の観点」 |
地域に貢献する郵便局ネットワークの活用として全国でさまざまに活躍されている郵便局を紹介し、郵政事業をPRすることができた。
4月号 | 東京都 練馬中村二郵便局 |
5月号 | 神奈川県 横浜柿の木台郵便局 |
6月号 | 新潟県 湯田上郵便局 |
7月号 | 福島県 桑折郵便局 |
9月号 | 岩手県 小友郵便局 |
10月号 | 宮崎県 高原郵便局 |
11月号 | 福岡県 福岡奈多郵便局 |
12月号 | 静岡県 猪之頭郵便局 |
1月号 | 北海道 白糠郵便局 |
2月号 | 愛媛県 西海郵便局 |
3月号 | 埼玉県 東松山白山台郵便局 |
以上、総務省の補完的役割をすべく多方面に活動してきました。